「チーフもレオンも、たいした怪我でなくてよかったわね」
「サヤさん、レオンさんもチーフも、無茶してましたよ」
生活棟最上階にあるレストラン『パロット』で、夕食を取るサヤとソラ。
救出された後テラは健康状態の確認のため、倉澤チーフとレオンは怪我の治療のため、メディカルセンターに収容された。
レオンは肋骨二本ひびが入り、倉澤チーフは裂傷が無数に両手指を三本突き指していた。テラの容態はよく、様子見のため一晩入院となった。
「私もさっき、光成補佐官に絞られたわ。お前の命はお前だけのモノではないって」
作戦にも命令にもないにも関わらず、カマエルを自爆させようとしたことで、サヤは光成補佐官から叱責を受けた。
「ユカリとの約束、破るとこだったわ」
エレベーターで一階まで降りたソラとサヤは『カナリー』から出て来たタカフミと鉢合わせた。
「さっそく連中、来たらしいわ。惚れ惚れするような食いっぷりで、晩飯食っていったみたいやで」
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一方、こちらは『レナニア』
一階の食卓に座るヒロコの前には、極上のワインと聾唖の執事が作った温かいドイツ料理が並んでいた。
「これは私の気持ちです。妹が遺した二人の甥っ子は、今の私にとって大切な宝物です。貴方様は、それを守ってくださいました。ありがとうございました。
どうぞ、心ゆくまでお寛ぎください」
実業家として六十代まで独身だった叔父上にとって、亡き妹アンヌの遺児である兄弟は今やかけがえのない宝物だった。
初めて味わう極上のワインにドイツ料理にか、その夜ヒロコはソラのベッドで久しぶりにグッスリと眠り、夢を見た。
姉さん、姉さん。きっと、帰ってきてよ。俺、大学生、マジメにしてるよ。姉さんのオムライス、また食べたいよ。
タクヤ……。
ベッドでまどろむヒロコの頬に、涙が伝った。
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翌日の昼さがり。
叔父上は食材を、アリーナへ届ける支度をしていた。どうやらパーティがあり、その仕込みや食材の持ち込みに行くらしい。
ヒロコはそれをしおにこの別な宇宙にある地球から去ろうと、兄弟の部屋を後にしようとしていた。眩しい笑顔でフレームに収まる仲良し兄弟の写真を一枚だけ、ポケットに入れて。
と、ドアをノックされた。
返事をして鍵を開けると、二人のB・i・R・D女性隊員、サヤとヒトミが立っていた。
「今からパーティよ。そんな喪服みたいなスーツじゃパーティも暗くなるわ。さ、ドレスアップ」
ヒトミはブティックの紙袋から、スッキリとしたラインに鮮やかなモーブのワンピースを出した。
その艶やかで華やかなシルエットにヒロコは目が離せない。
「ステキ! と思って買ったけど、全然サイズが違って、クローゼットに入れてたの。お友達のテラりんを助けてくれたから、これあげる」
「さ、ヒトミ。パーティ開始は七時。急いでドレスアップよ」
サヤはヒロコを座らせて、メイクボックスを開いた。
ヒトミもヒロコの烏の濡れ羽のような艶やかなか髪に、櫛を入れ始めた。
「さ、行くわよ」
有無を言わせず、サヤはブラック・パンサーにヒロコを押し込みアリーナへ向かった。
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テラ救出成功パーティには、ミラクル・ワイルド・セブンにその家族。そして作戦に協力したヘナチョコ五人組とヒロコも加わり『カナリー』を借り切っている。
少し時間が経ち、フミタケはタカフミに尋ねた。ソラと談笑している姉ちゃんは誰かと。
「ん、今回の一番の殊勲賞やな。あのねーちゃんがテラ坊を助けてくれたんや」
それを聞いたフミタケは、ヒロコの前に立った。
「お姉さん、テラっち助けてくれたんやな。
ありがとな。テラっちは俺のダチ。ダチを助けてくれて、お礼しか言えんのは悔しいけど、ありがとう」
ヒロコの目に、大粒の涙が沸き上がる。
ハンカチを差し出したのはユカリ。
「お友達のテラぽん、助けてくれてありがとう。
泣いたら、せっかくのお化粧ダメになるよ」
満面の笑顔でヒロコに微笑み、感謝を伝えた。
「テラ兄ちゃん助けてくれてありがとう。綺麗なお姉さん」
倉澤家の次女ハルカだ。
「テラちゃんを助けた人が、こんなに素敵な人でよかった」
倉澤家の長女ヨウカだ。
「ヒロコさん、これ五月ママの名人級のオムライス。これ僕からの気持ち」
テラが差し出したチキンライスを包んだふわふわの卵には、ケチャップで文字が書かれていた。
『ありがとう』
堪えきれず、涙をこぼすヒロコ。オムライスは兄弟三人とも大好物だったのだ。何かいいことあれば、兄弟で食べていた。
「え、泣くくらい嫌いだったの。ゴメンね」
「ううん、ありがとう。これ、食べていいかしら」
頷きつつ、スプーンを差し出すテラ。
コメント
もも
2020年 08月12日 07:15
5人組も無事でしたね
ふしじろ もひと
2020年 08月12日 07:42
もも様おはようございます。
次の回にはちゃんと彼らも出てきます♪