恐怖を喰らうという己のおぞましい性質に、いまやビーストは追い詰められていた。
かつて多くの仲間とより集まり闇の邪神と化した自分たちは、この女を同化するつもりで喰らったのだった。だがこの女は逆に自分たちを内側から撃破したのみならず、ばらばらになった自分たちを執拗に追いかけ討ち滅ぼしてきたのだ。
同じビースト同士の戦いでは、相手を怖れた方が負けである。現に相手は自分の内側に潜り込むや、肉体への支配に干渉し再生能力を狂わせた。そのため自分は外からの攻撃により削られては焼かれ、どんどん切り縮められている。餌食のはずの少年までが予想もしなかった抵抗を示し、つけ入る隙を全く見せない。内外から攻めたてられてもはや恐慌に陥る寸前のビースト。その力の中枢を貫く剣の翠とスラッガーの碧!
轟くような苦鳴とともに空を閉ざしていたダークフィールドが薄れゆき、沖合いから低く傾いた太陽が強烈な光を投げかける。ついに形を維持できなくなった黒く泡立つ粘質を、金色の光を翼に受けて旋回するウィング・オブ・ホープの3機が片端から焼き払ってゆく。
「……終わったな、ソラ」
”ああ、あとは2人の救出だけだ。ゼロ、剣を元に戻してくれないか。テラは自分の手で助け出したい”
「そうだな、オレの光線技では2人も巻き添えになりかねねえ。もうオレの出る幕ではなさそうだな」
そういうと地面に剣を突き立て、柄を握る手から淡い光を放つゼロ。次第に縮み始めた剣を一瞥するや、茜色に変じ始めた空を見上げ飛び去ってゆく。やがて戦闘機から攻撃するには小さくなりすぎた黒い汚泥のそばに着陸するワルキュリアから降り立ち、碧宙の剣を引き抜くソラ。集まってきた仲間たちが取り囲む中、不気味に蠢く黒い瘤の集まりのような肉塊に歩みよっていくと、振り切ろうとするかのように激しく伸縮する瘤の1つに向け剣を構え、叫ぶ!
「ビースト覚悟っ」
瞬間、ちぎれたように宙に舞う瘤を貫く2つの刃! 真っ白い閃光に思わず顔をそむけた仲間たちが戻した視線に映る3つの人影、斜め上に碧宙の剣を突き上げて立つソラの正面で、片膝を立てたまま二の腕からの長い爪を真上に突き立てている黒衣の女。その左腕に抱えられうずくまっていたテラが、やがておずおずと立ち上がる。
「に、兄さん?」「テラ!」
駆け寄る兄の眼前で、張り詰めた緊張が途切れたのかよろけるテラの体を再び支える人外の女。見上げる相手にどぎまぎした様子で立ち上がり、礼をいおうとする少年。
「ありがとう。あの、鬼のお姉さん」
「テ、テラ! なんて失礼なっ」
相手がどれほどその身を呪わしく感じているかを知るがゆえ、あせって弟を叱り付ける兄。だが、そんなソラを当人が穏やかな笑みを浮かべて遮る。
「ありがとう。でもいいのよ」
そういう相手をまじまじと見つめるソラの顔に、しだいに浮かび上がる喜びの色。
「ありがとう、本当にありがとう!」
ソラがいったとたん、歓声とともに駆け寄ってきた仲間たちが3人をもみくちゃにする。荘厳な炎のごとき落日のただ中で無事を喜び合い健闘を讃え合う一同。だがこのとき勝利を喜び合っていたのは、決して彼らだけではなかったのだ。
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「闇が晴れたぞ!」「てことはB・i・R・Dが勝ったのか?」「じゃああたしたちのご飯も?」「せーの」「バンザーイ!」
喜びの度合いだけなら勝るとも劣らぬ勢いで、互いに抱き合うだけでは飽き足らず、とうとう踊りだすポンポス星人5人組。そこへ口々に叫びながら走ってくる一団の男たち!
「支配人! あいつらが芝をメチャクチャに!」
「コラーッ、このゴルフ場は会員制だぞ。応援団や宴会はよそでやらんかーっ」
そんな怒声など耳に入るはずもなく、自覚なき侵略者たちはあたかも任務を解かれた軍用犬や伝書鳩顔負けの勢いで、餌場たるB・i・R・D基地めがけ走り去るのだった。
コメント
もも
2020年 08月11日 00:31
街中での戦闘 復興が大変ですね
お疲れ様でした
ふしじろ もひと
2020年 08月11日 04:33
もも様おはようございます。
ついに総力戦にも片が付きました(含む応援団)