「なにっ!」驚愕するビースト。そんなばかなとあわてて巨大な穴を確認する。再び見返したときには、だが蒼白の顔でこちらを睨みつけている少年の姿があるだけだ。必死で抑え込もうとしている少年の恐怖に邪悪な欲望を掻き立てられつつ、同じく少年に気を取られているゼロに注意を戻すビースト。脇腹で牙を剥く口の列が醜悪な嘲笑に歪む。
「……フ、恐怖を垂れ流しながらなにをいうか。ならばこいつを倒したあと、ゆっくりとこの身に取り込んでやる。きさまのその首も恐怖と狂気を貼り付けた飾りにしてくれるわ!」
「黙れ! おまえの戦いは見ていたぞ! あんな小さな黒い鬼を露骨に怖がってたじゃないか。臆病者の卑怯者、おまえなんかに負けるもんかっ」
「なんだときさまっ」
”テ、テラ! なんてことを!”
焦る兄の心配どおり、嘲けるつもりの相手に痛いところを突かれ激怒するビースト。テラを利用しようと考えていた用心深さも忘れ、憎悪を剥き出しに叫ぶ。
「それほど喰われたければ喰ってやる。こやつらにきさまが狂っていくのを見せ付けてやるわ!」
「ま、待てテメエっ」
焦って跳び込むゼロにもかまわず、地響きをたてて右横に身を乗り出すや脇腹の口を一気に伸ばして少年に喰らいつく巨大な魔獣。そのとき背後の影が伸び上がり、テラの全身を包み込む!
「ば、ばかなっ」
あわてたものの勢いが止まらず、そのまま相手を丸呑みしてしまうビースト。姿勢を崩したまま、これも無理な体勢で飛び込んできたゼロに左の首から放電光線を乱射する。交錯する電撃と斬撃! 両断され地に落ちる首と、目潰しをくらい背後に跳び退くゼロ。地面に残された首を3機の一斉攻撃が一気に焼き払うが、巨獣の傷口は蠢くばかりで今までのようには再生しない。
「クッ、オレとしたことが!」
”すまない、テラの無茶のせいで……”
「……ヘッ、なんでもねえぜこのくらい。こんなデカブツ、目が見えなくたってどうにでもならあっ」
再び剣を構え直し、全身を研ぎ澄ませるようにして集中するゼロ。ソラもゼロの超感覚を通し相手の、そして内部にいるはずのテラの様子を探ろうとする。
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「テラちゃん!」「テラ君……っ」
空中から、あるいは地上から、巨獣がテラを呑み込むのを目撃し呆然自失のB・i・R・Dの面々。その顔がやがて、凄まじいばかりの憤怒に染められてゆく。
「こうなったら寸刻みや!」「許さないわ、絶対っ」
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いきなり闇に取り込まれパニック寸前のテラに、だが女の声が話しかけてくる。
>なにをする気かと思ったら無謀なことを。でも、よく頑張ったわね<
「だ、誰?」
>君がいってたちっぽけな鬼よ<
笑いを含んで返した声が、しかし真剣味を帯びる。
>私たちはあいつの中にいるわ。君の体が直接あいつに触れないよう、私が覆っているの。でも今のあいつは大きくて強い。君が恐怖に陥れば、私ごと君の存在を噛み砕くこともできる。だから恐怖に負けてはだめ。なにか強い思いで克服するのよ!<
「強い、思い……?」
突然のことにテラがとまどいを隠せずにいると、強大な思念の声が陰々と聞こえてくる。
>おのれ、なんたるしぶとい奴め……<
その巨大さに圧倒される少年に届く、それでも臆せずいい放つ女の声。
>おまえの熱線、3本だったら助からなかった。けれどおまえは1本をゼロに向けざるを得なかった。全てを敵に回してしまうおまえの限界よ。どれほど強大でも、あらゆるものを相手に戦えるわけがないわ!<
思わず顔を上げるテラ。全く見通せぬ闇の中、しかしその目に光が宿る。
”ゼロだけじゃない。兄さんも、みんなも戦ってるんだ!”
瞬間、テラは気力を奮い起こして叫ぶ。
「卑怯者の臆病者! 僕だって負けるもんかっ」
>なにを小癪なぁあっ!<
巨大な闇を震撼させて、圧倒的な思念が焦りと怒りのまま振り向けられる!
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「デヤアァッ!」
一瞬の気の乱れを感じた瞬間、一気に駆け寄るゼロ。気づいて乱射される放電光線を『碧宙の剣』で打ち払いつつ、その軌跡を読み取り真横に剣を振り抜き駆け抜ける。回転角ごと最後の首を斬り飛ばされた相手めがけ額から振り向きざまに放つ光線技を、闇の巨獣はもはや防げない。
「防御機能が止まったわ!」「今度こそ往生せえやあっ」
すかさず3機の戦闘機が放つ弾幕の嵐に各部を燃え上がらせつつも、全身から触手を生やし応戦する巨大ビースト!
コメント
もも
2020年 08月09日 02:35
もう一息ですね
ふしじろ もひと
2020年 08月09日 07:35
もも様おはようございます。ようやくここまでたどり着きました。