“心配ないわ。ソラ。”
ヒロコを案じて振り返るソラに、ウミは優しく微笑む。
“ソラ、あなたの中にもあるはずよ。決して失われることのない激しい怒りや憎しみ、悲しみが”
“母さん、父さん……!”
家族を愛し平和に暮らしていた父を母を奪われた日。無抵抗な両親を、虫けらのように殺した侵略者。あの日からソラの心には、冷たい風が吹き抜ける穴がある。
だが、ソラは怒りや憎しみ、悲しみには支配されなかった。
あの日、父も母も笑っていた。愛する我が子達が生き延びることができたことを喜んでいた。
ソラにとってその笑顔は誇りであり、愛された証として、そして自分が選んで生まれた家族の証として,今なお心に刻まれている。
“……あなたがご両親を亡くした悲しみや侵略者への怒り、憎しみに沈んでいたら、ゼロはそんなあなたをパートナーにしたかしら?”
ゼロとの出会いによって、ソラの人生は大きく変わった。
憎しみや怒り、悲しみに飲まれていては、ゼロと共に戦うなどできない。ゼロと共に戦うことでソラの中の憎しみや怒り、悲しみすらも、今日とはまた違う明日を拓くためのエナジーとなっているのだ。
“わかった”
真っすぐに前を見つめるソラのオッド・アイは、すでに戦士の眼差しだ。
“行くわよ”
ソラとウミは、ゼロの元へ飛ぶ。
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「サヤ!」
触腕を斬られたため、機首が下を向いていたカマエルは墜落し第二冷凍倉庫を薙ぎ倒した。
「タカフミ、何をするつもりだ!」
着陸しようとするバロンを一喝する光成補佐官。
「カマエルのスペックならサヤは大丈夫よ。タンコブや青タンの一つ二つはできてるかもだけど」
西澤技術部リーダーもタカフミに返す。
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アスファルトに叩きつけられたカマエルの中で、サヤは一瞬気が遠くなった。
だが触腕によって捕らえられているゼロを見た時、直ぐさまカマエルのエンジン起動に入る。
ゼロを守りたい。それが出来るのは私たちだけだ!
目の前のシステム起動キーをサヤは迷わず右側に、ハイパー・ディメイション・システムを起動させる機構に差し込む。
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“くうっ。ソラ、ねーちゃんはどうなったんだよ。”
まだ戻らぬ相棒に毒づきながらも、ゼロはスラッガーを脳波でコントロールしながら触腕を切り捨てていくが、新たな触腕がそれ以上のペースでゼロの体に絡み付くため、次第に身動きが取れなくなってくる。
……欲しい。だが、まだ早いか。
そんなゼロと嵐の海にのたうつ磯巾着のような鬼女の上空で、天使の姿の闇は隙を窺っている。
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「くっ、切れろ」
意識を取り戻したテラはしばらく気絶したふりをしていたが、黒い影となり飛び去ったゴスロリドレスが、モニタの向こうで闇の天使に化けてゼロやB・i・R・Dのみんなと向き合うのを見た。あれは敵だと伝えるため、なんとか逃げ出そうと踏み潰した缶コーヒーの缶で鎖を切ろうとしていたのだ。しかしスチールの缶がちびていくばかりで、鎖はびくともしない。
そのとき地を揺さぶる車輌のエンジン音と共に、倉庫の一部が吹き飛んだ。驚いたテラの目にはなにも見えなかったが。やがてステルスシールドを消したB・i・R・Dの戦闘車輌シルバー・フォックスが姿を現した。
「テラ君伏せて、耳と目を塞いで」
言われた通りテラが目を閉じ耳を押さえてうずくまった瞬間、周囲が砕ける音とともに風を感じた。
恐々と顔を上げると、助手席から誰かが走ってくる。兄さんと同じ、コバルトブルーの行動隊の制服。
「く、倉澤先生!」
「テラ君、無事だったか?」
テラとも馴染み深い倉澤チーフが右手にはブラスターシュートを、左手でポーチからB・i・R・Dグラムを取り出し、テラの足を縛る鎖にかざす。
「チーフ、これならゴールドチェンバーでパワーレベル5あれば切れます!」
転送されたデータを解析し、即座に高嶺科学分析部リーダーが折り返す。今は一刻を争うのだ。
「テラ君、左足をこちらへ」
行動隊きっての射撃の名手たるチーフのブラスターシュートは正確に足首の近くで鎖を切断した。
「レオン、撤退だ」「ラジャー!」
倉澤チーフとテラが乗り込むやシルバー・フォックスの駆動輪が大地を噛んで走り出す!
「こちら倉澤。テラ君の救出に成功しました」
その無線に一同は安堵の吐息をもらすが、まだまだ状況は予断を許さない!
コメント
もも
2020年 08月02日 00:05
成功しましたね
ふしじろ もひと
2020年 08月02日 00:13
もも様こんばんは。
この場では成功しましたが、後でもっと大変な事態に(汗)