やはりどこかで焦っていたんだ! ゼロの中で、ソラは歯噛みする思いだった。
アリーナでの打ち合わせで、ソラは自機であるワルキュリアを囮にすると伝えていた。仲間たちや自分の中のゼロには、確かにそれで十分だった。
だが肝心の彼女には、自分の機体の見分け方などを全く教えていなかったのだ。
ゼロと一身同体であることを仲間たちに隠したまま戦ってきたソラにとって、ワルキュリアのこともまた明かせぬ秘密だった。その習慣が焦りとあいまって、こんなミスに繋がるとは!
彼女にとっては3機のうちの1機でしかない。だから外見上は筋書きどおりに事は運んでいた。しかし打ち合わせと違う行動を彼女が取ったため、ゼロや仲間たちは動揺していた。特に彼女と直接話したわけではないチームの仲間たちは、彼女を心から信頼していたわけではない。結果、激しい戦いの最中に突然襲われた気性の激しいサヤが本気で彼女を敵視したあげく、早まって自爆装置のピンを抜いてしまった!
ビーストを誘い出すまでは、彼女はサヤを手放せない。だが、これではサヤが脱出できないまま、カマエルは自爆してしまう! いったいどうすれば!
必死に頭を巡せるソラだったが、焦るばかりでなかなか妙案は浮かばない。
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様子がおかしい。赤い戦闘機を盾にしながら、鬼女はとまどいを感じていた。
自分が戦闘機を捕まえたら、当然ゼロやB・i・R・Dは思うように戦えなくなる。その機を逃さずたたみ掛ければゼロが窮地に陥る場面を演出でき、自分が勝ち残ることを望まぬビーストを釣りだせる。予定どおりの展開だ、問題はないはずだった。
しかしその場になにかこわばったような、本物の緊張が走ったのが感じられた。だがその理由がわからないため、彼女もにわかに不安に陥り、次の一歩を踏み出せずにいるのだった。
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その場の不自然な雰囲気を、邪悪な闇もまた感じていた。だがそれは皮肉なことに、最初に感じた違和感の直後に起きたため、かえって印象を混乱させる事態を招いていた。内なる警報の意味を掴みきれぬまま、少女の姿の闇は食い入るようにスクリーンを見つめていた。
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そのときゼロの脳裏に蘇る、亜空間でのやりとりの1コマ。
>なら、あんたがズバリいえばいいんじゃねえのか? オレを食うって。そんな奴だったらイチコロだろ?<
>……でも私、演技するの自信ないし、かえって疑われるかもしれないわ。戦うのは夢中になったら様になると思うけど……<
だが視線をそらすようにいう相手の姿に、あのとき自分やソラは察したのだった。彼女がビーストに侵された我が身をどれほど呪わしく感じているかを。だからあのとき自分たちは、戦いの帰趨により相手を誘い出すことを選んだのだ。
だが、もはやそれは破綻した。組み立て直す時間はもうない。それではサヤは助からない! 心を決め、呟くゼロ。
”許せ、ねーちゃん”
次の瞬間、拳を握り顔を上げるや、相手を睨みいい放つウルトラ一族の若者!
「てめえ、なにが望みだっ」”ゼ、ゼロ?”
驚くソラには耳を貸さず、サヤを捕らえた黒い千手を見据えるゼロ。
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ぎくりとして、思わず相手を見返す黒き阿修羅。だが相手は必死の形相だ。大変なことが起きたのは明らかだった。
理由はわからない。けれど方針を変えなければならない事態が生じたことだけは確かだ。それがこの緊張の正体なのだ。彼らは彼らなりに配慮してくれていたが、それが不可能になったということなのだ。
しかし、彼らは真の理由を知らない。その言葉をいえば自分はゼロを同化しようとしなければならなくなる。相手もビーストである以上、言葉だけでは嘘だと見破られてしまうから。
だが我が身をここまで侵食された状態でビーストの捕食本能を開放すれば、自分が無事でいられる保障はない。激しい憎悪と嫌悪が恐怖を圧倒しているから、かろうじてビーストを抑え込めているだけなのだ。もし恐怖に捕われたら、自分の精神はたちまちビーストに食い破られる。かつて戦った、無数のビーストを己の体に束ねていたあの男のように。
瞬時の迷いと葛藤。だがそれを振り払いゼロに、そして自分を見ているはずの仇敵に向かって女は叫ぶ!
「私には倒すべき者がいるわ。だからその力もらい受ける!」
コメント
もも
2020年 07月30日 02:23
自爆しちゃうか心配です
ふしじろ もひと
2020年 07月30日 05:09
もも様おはようございます。
自爆させないようにと無茶をする展開になりました(汗)