壁を破り走り去る一行を半身を影に浸したまま見送る少女。強張ったその顔が徐々にゆるみ、安堵混じりの嘲笑が浮かぶ。
「……フ、ハハ。しつこい奴め。すっかり目がくらんでおるな。せいぜい走り回っておるがよいわ」
嘲けりつつも自分がどれほど相手を怖れていたか、改めて思い知らされずにいない闇。腹立たしげに影から抜け出しスクリーンを見上げたとたん、戦闘機に銃撃される女の姿が目に入る。
「ばかめ、派手に暴れておるからだ」
嗤うその眼前で巨大化し応戦する鬼とも蜘蛛ともつかぬ怪物が伸ばした触腕で機体を捉えたとたん、頭上から光をまとった姿が触腕を蹴りつけ戦闘機を解放する。
「なに? まさかっ」
思わず身を乗り出す少女の形の闇。
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スラッガーで打ちかかるゼロ。爪で受け押し返す黒い阿修羅。両者の動きが止まった瞬間、耳打ちする鬼女。
”やはりあれはビーストよ。あの子もまだ同化されてないわ”
”なら奴の狙いはあんたの死と、テラをダシにオレを食うことの二つってワケか”
うなづく黒き鬼。
”だったら夢を見せてやろうじゃねえか。ヨダレの出そうなやつをよ。じゃあいくぜ! 手加減するなよっ”
”え? なぜ?”
”あいつはあんたとやり合ったんだろ? じゃ、本気のあんたを知ってるはずだ。この前みたいじゃ疑われるぜ。こっちも本気でいくからケガすんな!”
”そういうことならっ”
相手を突き放すやリーチの長い斬撃の連打を繰り出す阿修羅。真上に跳ぶゼロを襲う槍のような爪また爪。それらをかわし弾き返しつつ、一気にヒートアップする若きウルトラ戦士!
「そう来ねえとな!」
眼下の影めがけ額からビームを連射するゼロ。一対の腕に赤い光の盾を張り防いだ影が別の腕を振り抜くや、鱗状の刃が無数に放たれゼロを襲う。振り切ろうと飛びすさるゼロを追尾する刃。打ち払うべく着地しようとしたとたん、足元の影から突き上がる爪の群れ!
「おうっ!」
爪の2本を両手で掴み影から相手を引き抜くや、鱗の刃めがけ投げつけるゼロ。刃を爪に吸収した鬼女が腕の一対を左右に振り降ろすと、湾岸やピット星人の基地を含む広大な一帯がみるみる闇色の亜空間に包まれる。これぞ光の力を弱め闇の力を増強する亜空間、ダークフィールドである。
「小癪なっ」
飛び上がるゼロと応戦する鬼女が激突し、風を切りつつ螺旋状に斬り結ぶ。それは苛烈でありながら、刃の上での舞闘のごとき超絶の美さえ帯びている。
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思わず巨大モニターへと一歩踏み出す少女の姿の闇。その目にたぎる貪婪な光。
「あやつの闇に引き込まれ、なお互角に戦えるか。ウルトラマンゼロ! 欲しい、欲しいぞその力!」
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天空めざす螺旋の頂点で激突する両者。より高く飛翔する光と落下する影。その蜘蛛のような巨体に急迫するウィング・オブ・ホープの3機!
「ゼロを援護するわよ!」「隠し球は出せんが花吹雪やっ」
たちまち闇空を縦横に切り裂く火線と弾幕が叩き落とされた影と重なり爆発する。黒いシルエットを彩る鮮やかな閃光はまさに花吹雪。だが影は一斉に腕を広げて打ち払い、戦闘機めがけ飛翔する。追い縋ろうとした瞬間、その背に決まるゼロキック。
「オマエの相手はこのオレだっ」
応戦のいとまを与えず繰り出す攻撃に、たちまち防戦一方へと追い込まれる異世界の阿修羅。
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拮抗していたパワーバランスが崩れ劣勢を隠せぬ鬼女の姿に、少女は目をぎらつかせ叫ぶ。
「きさまの命運も尽きたか。このままここで滅ぶがいいわ!」
瞬間、ゼロのワイドショットと3機の一斉攻撃が突き放された影に集中、ダークフィールドをゆるがす大爆発を起こす!
「やった!」
破顔する少女の邪悪な喜色。スクリーンを覆う爆炎から、だが突き出された無数の腕が炎を払うや離脱する3機を急襲、真紅の機体を掴み取る!
「なにっ」
身をこわばらせる闇の正面で、もはや黒き千手と化した阿修羅がゼロや旋回する戦闘機たちに向けいい放つ。
「動くな! おかしな真似をすればこいつの命はないぞ!」
耳にした瞬間、少女の姿の闇の邪悪な心に違和感が走る!
コメント
もも
2020年 07月27日 19:48
激しい戦いですね
ふしじろ もひと
2020年 07月27日 22:01
もも様こんばんは。
まだまだ序の口です。