>ったく、逃げることばかり考えてんじゃねえ!<
>くっ、こんな暇はないといってるのに!<
あくまで活路を切り開こうとする黒い鬼女に業を煮やし、右のスラッガーを斜めに斬り上げるゼロ。長い爪がそれを受け止めた瞬間、左のスラッガーが肩口からその腕を切り落とす。とたんに落とされた腕が刃持つその手にからみつき封じるや、封じた腕の下をかいくぐり背後に逃れる鬼女。
>逃がすかよっ<
2枚のスラッガーを矢継ぎ早に投げるや、額から光線を左右に乱射するゼロ。それは2枚の刃に散らされ斜め上から相手の行く手へ無数の矢となり降り注ぐ。体を捻り真横へ跳躍しようとする蜘蛛のような影にソラが叫ぶ。
>弟を返せ卑怯者!<
やにわに動きが止まった黒い阿修羅に追いすがり、一本の腕をねじ上げた瞬間、音なき次元に響かんばかりの痛打を頬に受ける若きウルトラ戦士!
>なっ……?<
絶句する一つの身体の二人を睨みつける女。その吊り上がった目からつっと流れる涙。
>攫ったというの? 私が? あなたの弟を?<
蠢く闇の中で形を失わぬ女の顔が、唇をわななかせ叫ぶ!
>そんなことできるわけないじゃない! ひどいわっ<
悔し涙にくれる人外の女。完全に気を呑まれ呆然と立ち尽くす2つの種族の若者たち。ややあってぼやくゼロ。
>くそ、見えなかったぜ。これがてめえの本気かよ……。ソラ、オレはこういうの苦手だ。オマエのせいなんだからなんとかしろよな<
いいつつソラの意識の背後に退くゼロ。ようやく普段の冷静さを取り戻したソラが、言葉を選びつつ話しかける。
>……確かに君は、テラのことは一言もいわなかった。逃げるための脅しにすることも。俺は早まったのかもしれない<
言葉を切り、相手をまっすぐ見つめる若きウルトラ戦士の姿の青年。
>だが、それなら教えてほしい。君はいったい何者なんだ。闇に同化されていながら、なぜ君は君でいられる?<
>……それは、このビーストが、私の心の闇に引かれたから<
目を落としつぶやく女の思念の声に浮かぶ苦い色。やがて話し始めるその身の上。
彼女の世界では、闇たるビーストと光たる銀色の巨人が戦いを繰り広げていたが、人に取り憑き変貌させる力という点では同じであり、多くの者がその戦いの中で運命を狂わせられていった。彼女の兄もまた光を受け継いだ一人だったが、その兄が目の前で人々を守り抜いて死んだとき、彼女の精神は平衡を失ったのだった。
>頭ではわかっていたわ。でも、心の奥の思いは消せなかった。兄さんが死んだのはみんなのせいだ。みんなが兄さんを奪ったんだって……。そして私は憎悪をつのらせ悪夢に苛まれた果てに、眠りの中でこのビーストに憑かれてしまったの。憎悪に同調することで強い力を得たこいつは、私が眠るたびに街に現れるようになった。そのとき、今度は私の弟が光を得たの<
>まさか、自分の弟と戦うことになったのか!<
>知らなかったのよ! 自分がどうなっていたかさえ……。でもそんな戦いを繰り返すうち、私は目覚めてしまった。そしておぞましいこの姿を、呆然と立ち尽くす弟を見たショックで私の心は砕け、あまりにも深く私と同調していたこいつもろとも仮死状態になってしまった<
想像もつかなかった話に言葉もなく、ただ聴き入る1つの体の2人の若者。
>心を闇に染めたあげく、こんな怪物になり果てた私……。でも弟は、タクヤはそんな私をあくまで守り、呼びかけるのをやめなかった。兄さんと同じようにビーストと戦い、激しい戦いに疲弊しながら。そしてついに多くのビーストが寄り集まった化け物に敗れかけた時、その叫びが私を深淵から呼び戻したのよ<
>ビーストを束ねていた者を倒すと、奴らはバラバラに逃げようとした。だから私は奴らを自分もろとも地球から亜空間へと引き剥がし、無数の宇宙を巡りながら追い詰め倒し続けてきたのよ。タクヤが呼び戻してくれたから。奴らと刺し違えて死ぬ気だった私に、生きていろといってくれたから……っ<
もはや言葉を続けられず、顔を覆いむせび泣く人外の女。ソラもゼロも修羅道としかいいようのない壮絶な来し方に圧倒され、ただ呆然と立ちつくすばかりだった。
コメント
もも
2020年 07月20日 01:00
読みました
ありがとうございます
ふしじろ もひと
2020年 07月20日 05:30
もも様おはようございます。
ご覧下さりありがとうございます。
もっさん
2020年 07月20日 10:47
お兄さんを失ったことで憎悪の感情が沸き上がり
ビーストに取り憑かれた女。。。
何とも切ない身の上だったんですね。
ふしじろ もひと
2020年 07月20日 21:39
もっさん様こんばんは。
そんなわけでこのリレーでは、そんな彼女がこのお話での体験からなにかの点で変われるだろうかというところも考えつつ書いていました。