ソラは左手でポーチからB・i・R・Dグラムを取り出した。スマートフォンのような小型端末ながら様々な機能が搭載され、今は怪獣反応センサーにセットしている。
怪獣反応が正面から出ていて、背後の『ホワイト・タイガー』ならぬ『阪神タイガース』からは出ていない。スイッチを切り替え星人反応にすると『阪神タイガース』から5つ出てくる。
「怪獣反応があって星人ではない……。貴女は何者ですか」
詰問しつつもソラの右手は腰に下げた『碧宙の剣』に触れている。その時、ソラの背後で『阪神タイガース』がアリーナへ向け動きだす。
「逃がさないっ!」
黒衣の女が『阪神タイガース』に飛びかかろうとしたが、その胸元に、白銀の刃がギリギリのところで止まっている。
いつの間に……!
青い制服の若者は、スマートフォンのような端末を手にしたままだ。だが腰を低く落とし、右手で細身の剣を手にして、完全に自分の動きを封じている。
「……話がわからない人ですね。日本語がわかりますか」
ヘルメットのバイザーのため、青年の眼差しはこちらには見えない。だがただ者でないのは間違いない。海上を走り去る『阪神タイガース』が突堤から遠ざかる中、再び相手が口を開く。
「質問に答えてください。貴女は何者ですか?」
ポーチに端末を戻した青年が両手で『碧宙の剣』を握ったとたん、
“お前は誰だ。何故この地球へ来た?”
異なる声が黒衣の女の脳裏に直接響いてきた。その声になぜか女は金色の瞳を、まなざしを感じた。
相手は何者なのか。
わからないまま睨み合う両者。だが次の瞬間、高まる気配に突堤の鴎たちが一斉に飛び立つ下での応酬に、互いに手応えがあった!
「待て!」
ソラの叫びを背に、黒衣の女は旧湾岸通りの影へ溶けた。
ソラの左手のグローブが微かに裂けて、血が流れていた。
そして『碧宙の剣』の切っ先には、黒い布と血飛沫が数滴残っていた。
ソラはB・i・R・Dグラムに自分の傷をかざしてみた。幸い異常は検出されていない。ふと思い立ち、ソラは『碧宙の剣』に残った相手の血液をB・i・R・Dグラムで解析してみた。
「人間、O型の血液……」
ソラはAB型だ。では、あの怪獣反応を持つ女は、人間だというのか?
“ソラ、別な宇宙に地球があっても全然変じゃねえぜ。覚えてるだろ? ジールやマシンナーズ・ロード、パックもみんな違う地球の存在だったじゃねえか”
“ああ、頭では理解しているつもりさ”
八月の初旬、晴美埠頭に現れた黄金色に輝く帆船。その中での出会いと別れ。あの時、帆船の中では合わせて4つもの時空の異なる地球が重なっていたのだ。
ソラは切っ先をウェスで拭い、付着した血液を一滴、密閉容器に入れて『碧宙の剣』を鞘に戻した。そして周囲を見渡した時、彼は気付いた。
「ここは。そうか、ここだったな……」
ここで、一人の宇宙人と巡り会い、そして別れたのだった。子供を亡くした父と、父を亡くした息子。ソラがまだ両親を亡くした痛みを感じていた時のこと。
そんな感慨から引き戻すコール音。
「ソラりん、無事?」
「あ、ヒトミさん無事です。ただ申し訳ないですが、怪獣反応は見失いました」
会話の相手が、真柴リーダーに代わった。
「無事なのね。ソラ、今夜はシティに外出禁止令を出すわ。一旦帰って来なさい。そうでなくても丸二日、ろくに寝てない疲れもあるでしょ。テラちゃんからも、おやすみなさいメールが来てたわよ」
「ラジャー、これより帰還します。パトロールを兼ね地上走行で戻ります」
ソラは『グレイ・ハウンド』に回転灯を出し、サイレンは鳴らさずにシティへと走り去る。それを影から溶け出した黒衣の女の半身が『碧宙の剣』で斬られた左肩を押さえつつ見送る。
あの若者の中に、女は確かに別な存在を感じた。だがそれは、自分が追っている仇敵とは明らかに異なる何者かだった。
アリーナに戻ったソラは、ポンポス星人たちを尋問中のタカフミと倉澤チーフを除くメンバーでのミーティングの結果、高嶺科学分析部リーダーが来たら例の血液の精密検査を依頼をすることを決めてから睡眠に入った。さすがに疲れもあって彼は翌朝まで熟睡したのだった。
だが時間どおりにソラがベッドから出たとたん、ドアが開くや顔色をなくした真柴リーダーが異変を告げる。
「大変よソラ、テラちゃんが!」
コメント
もも
2020年 07月15日 02:00
弱点を突かれたようですね
ふしじろ もひと
2020年 07月15日 05:06
もも様おはようございます。
弱点モロに突かれてます(汗)
もっさん
2020年 07月15日 09:02
きっとテラの身に何かが起きると思っていましたが
あぁ、やっぱり。。。
続きを期待しています。
ふしじろ もひと
2020年 07月15日 16:15
もっさん様そろそろこんばんは。そんなわけでテラが兄のソラと再会できるのは終わり近くだったりします(汗)