「このボロいハンドバッグが侵略に使えるだと?」
ポンポス星侵略部隊の精鋭5人組のリーダーであるボースが、今にもベルトが切れそうな太鼓腹をゆすってそういった。金属製のそのベルトはただの留具ではなく、昆虫人間まがいの真の顔を地球人のように見せかける変身ベルトだ。うかつに外出するとベルトが切れて変身が解けかねないため、ボースは部下たちを資金調達の名目のもと働かせておきながら、自分はこのビルにこもったまま地球征服の計画をひたすら練り続けているのだ。だが運動不足が祟ったボースの体格はとうに縦横の区別すらつけ難いものになり果てており、ベルトの運命はいまや風前の灯だった。
「波動が観測されたゴミ捨て場で発見したんです、はい」
ビン底眼鏡を自慢げに直しつつ答えるひょろっとしたドース。零細企業の経理職にありついた彼の稼ぎは5人にとって安くとも貴重な定収入だったが、その正体はありとあらゆる兵器の開発・運用・保守を担う凄腕の技術者だ!……少なくとも当人のつもりでは。
「波動って、どんな波動よ」
ジト目でそういったのは副官格のメースだが、隣接する商店街の福引大売り出しのバイト帰りのハッピ姿のままでは、どうにも様にならないのは否めない。
「未知の高レベル生体反応です。おそらく怪獣反応かと」
ドースの言葉に、露骨に疑いのまなざしを向ける戦闘員のオース。こちらは建設現場の日雇い帰りのため、黒ランニングが塩を吹くほどの汗にまみれている。
「怪獣反応が壊れたハンドバッグにだと? なにかの間違いじゃないのか?」
「そんなことはない! さっきはちゃんと数値が出たんだ!」
「じゃあ、今はどうなのよ?」
先が見えたといわんばかりのメースの言葉に、哀れっぽく両手を上げるドース。
「測定機の電池切れでわかりません。拾った電池だったんで」
やれやれといわんばかりに、色が落ちた上に紐の端がちぎれたハンドバッグを眺める4人だったが、それまで黙っていた工作員ミースが急に大声を出した。
「ねえ、これってひょっとしたら本革じゃない?」
彼女はちょうど先月からリサイクルショップのバイトに雇われたばかりだったのだ。いわれて手に取り調べるメース。
「そういえば、これワニ革かも」
「本当か? だったら!」
「お店に持ってけばお金になるかも!」
見事にハモるオースとミース。
「紐取れてるぜ。接着剤はないのかよ?」
「この前拾ったボンドのチューブが残ってます」
「ひどい色落ちよ。どうにかならない?」
「前に失敗した怪獣強化液を塗りたくれば、なんとか」
もみ手で答えるドースの背中をドンと叩くボース。
「でかしたぞドース! なにがなんでも千円以上で売れるように仕上げろ。明日はスシ・パワーの千円食い放題デーだぞ!」
おおっと歓声を上げる一同。たちまち四方八方から伸びる手によって、みるみる変貌してゆくハンドバッグ!
「あとは一晩置いとけば大丈夫!」
胸を張るドースの宣言に万歳する侵略者たち。
「よーし前祝いだ。明日に取っておく予定だったこのパンの耳、全部食ってよし!」
「さすがボース様太っ腹!」「一生ついて行きますぜっ」「あなたの部下に生まれてきて本当によかった!」
宴会さながらの大騒ぎが廃ビルの一室にわきあがる。
宇宙人である彼らが3人寄れば文殊の知恵という諺を知らないのを責めるのは酷でも、5人も頭数がいながら誰からも明後日のために置いておこうという発想が出てこないのはいかがなものかと思う向きもあるだろう。だがおそらくは、太陽系第3遊星人の常識ごときで宇宙の事象を考えること自体に、無理があるというべきなのだ。
そんな騒ぎの中、突如として階下から足音が迫ってきた。
コメント
もも
2020年 07月04日 23:27
続きが楽しみです
ふしじろ もひと
2020年 07月05日 00:54
もも様こんばんは。
いよいよ次回は、僕のほうからのゲストキャラが登場です。
もっさん
2020年 07月05日 09:32
測定機が電池切れ!
本革のハンドバックに怪獣反応!!
パンの耳、全部食べちゃうし~!!!
ツッコミどころ満載で書ききれません。(笑)
この後どうなるか、何となく想像できますが
楽しみにしています。
ふしじろ もひと
2020年 07月05日 09:57
もっさん様おはようございます。
いやいやこの電池、現物を見たら元がそうだったとは思えないほど錆びてるんです。そんなのから一瞬とはいえ電力を取り出せただけでもさすが宇宙人の超科学!
ただ惜しむらくは彼らの場合、その片鱗が枝葉末節の部分でしか発揮されたことがないんです(涙)