Ａ氏は東大生の中でも極めて頭が切れる人。今は立派な弁護士。４０年くらい前に、氏はこのような事を言っていました。
　　「明治に入り、部落民は江戸時代よりも差別が悪化した」
　　何か、そのような本も読んだようですが、当時の僕は勿論、それを聞いた全員が判らず、変にも思われました。確かに、「封建時代➔近代になったのだから、どの差別も軽減されたじゃないか」にもなってきますね。上べだけ見ると、Ａ氏の発言はおかしかったわけです。
　　それから、１０年して、放送大学の関係で、日本の賤民史関係の本を読んだ所、「明治になり、肉食が増え、屠殺は部落民に押し付けられた。四民平等も掛声だけだった」と書かれてあり、Ａ氏の言っていた事も根拠の一つはこれだと思いました。でも、戦後は部落関係に経済援助も行なわれ、屠殺業する人たちはへっている。それなら、解決に向かうはずだが、されていない。その時の僕も訳が判らなくなりました。
　　明治になり、その差別がひどくなった理由はもう一つありそう。明治は共感を重んずる社会になったわけです。至る所で共感。その極端な姿が天皇への共感。政府と新聞各社は共感を煽ったし。各宗教関係も共感中心のものになり、共感に関係ないものは葬式宗教になるか、廃れていった。庶民のかなりは軍人に共感し、それを目指す男子も多く出ました。まだＴＶはなかったですが、芸能界の走りみたいな人たちも現れたし。
　　反面、地味な生き方をするなど、共感と無縁の生き方をする人たちは社会から埋もれていった。それよりもひどいのは、共感もできないような状況の人たち。部落民は勿論、アイヌ、琉球関係、聴障者、精神障碍者、ハンセン氏病関係と。それらは本当にその時期に差別がひどくなったり、バカにされた。高浜虚子の弟子に村上鬼城という、聴障の俳人がいて、虚子の弟子たちはしきりに鬼城をバカにしたため、常に虚子は怒ったわけです。「耳の事で、バカにするな」と。虚子はともかく、その記録からも当時の日本では、聴障者への差別がひどかった事が判るし、今も差別はひどいままだそうです。戦後になり、平和憲法はできても、共感重視の価値観は消えていない。
　欧米は本当はもっとひどいかもしれない。大リーグ中継の時、「アメリカでは共感されない人は相手にされない」と聞いた覚えがある。伝統的にそうらしいです。又、１９世紀初めのナポレオン、２０世紀のヒットラーが支持され、独裁者になった根の一つも、彼らへの共感があるし。共感できないユダヤ系や障碍者は無視され、ナチスの言う通りの虐殺を許しました。
　今回のアメリカの黒人関係も解決のきっかけになるのか。共感ではなく、命中心の価値観でないと解決はできないわけです。
　因みに、常に共感買う生き方をしていると疲れます。明治から「気鬱症」が増えていますし。共感は人を結ばない。特定の身障者に共感して結婚するサポーターも多いですが、僕の見た範囲、離婚にもなっている。共感は人をつながないようです。何も身障関係に限らず、結婚も命中心の価値観でないと成立しないと。共感は「より優れたものを求め、前進する」。資本主義の根の一つでしょうし。
　　とにかく、貴重な発言をＡ氏から聞いたものです。