ふしじろ もひとさんの日記

2020年 01月16日 18:38

「クレンペラーとメンデルスゾーンによる」『スコットランド交響曲』旧録音

(Web全体に公開)

 令和2年は2020年という2づくしの年となりますが本年もよろしくお願いいたします。今回はクレンペラーによる『スコットランド』の旧録音の話題から始めさせていただきます。まずはいつものように新旧両盤のタイミング比較から。

クレンペラー/ウィーンSO(1951年)
15:55/04:12/08:08/09:48
計38:03(反復あり)
(41.8%・11.0%・21.4%・25.8%)
12:39/04:12/08:08/09:48
計34:47(反復除外)序奏2:47(22.0%)
(36.3%・12.1%・23.4%・28.2%)

クレンペラー/フィルハーモニアO(1960年)
15:22/05:14/09:35/11:47
計41:58 序奏4:00(26.0%)
(36.6%・12.5%・22.8%・28.1%)

 ごらんのとおり、旧録音は10年後の新録音が省略した提示部の反復を励行しています。これは少なくとも僕の手持ちの録音中最も早い実例になります。そして反復を省いた状態で各楽章の比率を比較すると、この曲を演奏したどの盤よりも第3楽章が速く第4楽章が遅い彼独特の造形がすでに窺えることがわかります。今回は新盤とも比べている関係上、ステレオ初期から70年代にかけての諸盤の比率と比べてみます。

マーク/ロンドン響(1958年)
13:12/04:10/11:03/09:35
計38:00 序奏3:41(27.9%)
(34.7%・11.0%・29.1%・25.2%)

バーンスタイン/ニューヨークPO(1964年)
13:08/04:19/11:36/09:13
計38:16 序奏3:52(29.4%)
(34.3%・11.3%・30.3%・24.1%)

アバド/ロンドンSO(1967年)
12:42/04:15/10:12/09:24
計36:33 序奏3:29(27.4%)
(34.8%・11.6%・27.9%・25.7%)

カラヤン/ベルリンPO(1971年)
13:57/04:25/11:48/09:24
計39:34 序奏3:49(27.4%)
(35.2%・11.2%・29.8%・23.8%)

マズア/ゲヴァントハウスO(1972年)
13:23/04:25/08:08/10:16
計36:12 序奏2:46(20.7%)
(37.0%・12.2%・22.5%・28.3%)

C・ドホナーニ/ウィーンPO(1976年)
13:24/04:30/09:23/09:24)
計36:41 序奏3:34(26.6%)
(36.5%・12.3%・25.6%・25.6%)

シャイー/ロンドンSO(1979年)
14:31/04:25/11:55/10:07
計40:58 序奏4:03(27.9%)
(35.4%・10.8%・29.1%・24.7%)

 ご覧のとおり、なぜかマズア盤だけクレンペラーとそっくりのテンポ設計になっている以外ほとんどが各楽章のコントラストを意識した演奏になっています。特に第3楽章と第4楽章の対比を通常の演奏は強調しようとする姿勢が顕著なのですが、クレンペラー(とマズア)だけはテンポの落差をなるべく均し、連続性を前面に押し出しているのです。
 ところがコロムビアが復刻したこの旧録音の解説書によると、この第3、4楽章の指揮はクレンペラーではなくて別人だというから驚きです。録音当時クレンペラーは演奏旅行と日程が重なり前半2楽章は自分で指揮したものの後半はヘフナーという指揮者による収録に立ち会っただけでツアーに出かけました。ところがプロデューサーが発売を急いだせいかヘフナーによる後半楽章を使ってLPが発売されてしまい、クレンペラーの抗議にもかかわらずそのまま後世に残ってしまったというのです。本人が録音に立ち会っていたのならそれは本人が練習した内容でオケが演奏するという形だったはずで、だからその解釈の特徴が留められていたのでしょうし会社側の強気の姿勢もそこに根ざしていたのかもしれませんが、これを機にクレンペラーはVOXとの契約を解除したのでした。驚くべきことにこのプロデューサーの名はジョージ・メンデルスゾーン。単に同じ姓なだけでなく作曲者の直系の子孫という嘘のような本当の話だったというのです(汗)

 この顛末はクレンペラーの伝記を書いたピーター・ヘイワースがメンデルスゾーンに問い合わせて得た回答に拠るもので、ヘルベルト・ヘフナーという人は生没年はわかりませんがNMLにもこの『スコットランド』のところにクレンペラーと並んで名前が出ています。ただ「ギリシャでのライブ録音」と書かれているのはツアー先がギリシャだったことと混同されているようで少なくとも会場ノイズなどはありません。またNMLにはアンタイルの交響曲5番「歓喜」やワーヘナールの交響曲4番、ジョスティンの『エンデミオン』が50年代の録音として登録されているほかタワーやHMVにベルクの歌劇『ルル』の2幕版のライブ音源がCD化されたものも出ています。またVOXにウィーンSOと入れた中古LPとしてヒンデミット『白鳥を焼く男』と『ヘロディアーデ』や『金管と弦楽による演奏会用音楽』と『ホルンとオーケストラのためのコンチェルティーノ』をそれぞれ表裏にした中古LPも出てくるので20世紀前半の音楽を得意とした指揮者のようです。ベルクは1949年、それ以外は50年代のいずれもモノラル録音とされているので、ステレオ時代には録音を残せなかった人々の一人だったのかもしれませんし、戦前からアメリカ時代にかけて同時代音楽を数多く手がけたとされるクレンペラーと活動領域が近かったことを窺わせる録音歴でもあります。

 実は今回、マズアの旧録音があまりにもクレンペラーの新旧両盤とテンポ設計が似ているので、両者の接点がどこかの時点でなかったかネット上をあれこれ探してみましたが、同じ時期に同じ場所にいたとか助手をしていたといった情報は見当たらず、同じベルリンのコーミッシュオーパーで異なる時期に主席指揮者を勤めたことがあったのがキャリア上での接点だった程度です。ただ調べている中でマズアが同じゲヴァントハウスOの指揮者だったこともあって、ベルリンの壁崩壊以降に荒れ果てていたメンデルスゾーンの住居を再建したり基金を作ったりすると同時に「チャイコフスキーなら満員になる会場がメンデルスゾーンだと半分しか埋まらない」といって全てのコンサートに必ず1曲はメンデルスゾーンの曲を入れるようにするなど普及活動と研究に尽力したという紹介記事を見つけ、ベートーヴェンやブラームスでは再録音でも解釈の違いを見せなかったこの指揮者がメンデルスゾーンだけは大きく解釈を変えている理由の一端に触れたように思えたのは収穫でした。

マズア/ゲヴァントハウスO(1972年)
13:23/04:25/08:08/10:16
計36:12 序奏2:46(20.7%)
(37.0%・12.2%・22.5%・28.3%)

マズア/ゲヴァントハウスO(1987年)
14:38/04:18/09:25/09:30
計37:51(反復あり)
(38.7%・11.3%・24.9%・25.1%)
12:08/04:18/09:25/09:30
計35:21(反復除外)序奏2:37(21.6%)
(34.3%・12.2%・26.6%・26.9%)

コメント

もも

2020年 01月16日 19:39

この差がわかる人がいる自体 凄いと思います

ふしじろ もひと

2020年 01月16日 22:13

もも様こんばんは。なにしろ実際の音源をむやみにアップするわけにもいきませんから数値化して表記していますが、テンポの切り替えによるコントラストの付け方の違いなので数字で見る以上に差は感じられます。同じ楽譜から色々な解釈の違いが出てくるのがクラシックという分野特有の面白さでもあるので、深みに嵌ると一生ものだったりするのです(汗)

SNS オールギャザーへようこそ!

パスワードを忘れた方はこちら


新規登録はコチラから

他のアカウントを使って新規登録・ログインする場合はコチラから

オールギャザーとは?

世界初!社会貢献型SNSです

AG募金に、ご参加を!

ヾ(´▽`)ノ

募金カウンターの仕組みは?

サイトを利用すると、募金カウンターがカウントし、自動的に募金活動ができます。

例えば

ログインをするだけでカウント

日記やコメントやコミュニティを書く、見るだけでもカウント

友達のプロフに訪問してもカウント

利用するほど、募金活動ができます。

すべて無料です!

会員の皆様には金銭的負担は一切ありません。

すべて無料で、ご利用できます。

どうぞ安心してご利用ください。

登録は簡単!

→ 新規登録 ←

ーーーーーーーー
お笑い月間!
ちょっと、クリックして
みてください^^
  ↓
→あなたの運気を上げます!

→みんなの声
ーーーーーーーー

お知らせです