今は、中公文庫刊。1964年(昭和39年)から書かれ、67年に単行本として発売された。
生まれてきた子に重い身体障碍があり、最初はその夫婦は戸惑うが、励まし合いながら、今後の育て方を二人でじっくり話し合い、その結果として、夫婦愛が非常に強くなっていく。結論として、施設ではなく、二人の手元で一緒に育てていくという筋書きである。フィクションの面もあるが、自らも障碍児を持たれた体験小説である。関心を持たれた方はお読みになると良い。
僕は90年代にその小説を読んだ。その解説に、60年代に水上氏は当時の池田首相に障碍者福祉の事を訴えた事を知った。でも、以上の小説の内容から、それが島田療育園の職員問題だとは察しも付かなかった。また、僕がその小説を読んだ10年前には、たびたび話している身障運動家たちが島田療育園に抗議したり、八代英太議員が国会で島田療育園の在り方を批判する事を述べたが、それ以来、まずは身障運動の世界で、次いで福祉関係の世界からも「島田は悪い所だ」というイメージが生まれたため、水上氏とか、少し前に話した花田春兆氏の関わりも語られなくなり、忘れ去られた面もあると思う。それを最近の僕はインターネットで相次いで再発見したわけだ。
歴史は風評で変わるものだとつくづく思う。そのような事は小学から高校までは勿論、放送大学の歴史系の授業を聞いても出てこない。今の僕のしている事は、小説に名を借りた、島田療育園の歴史記述だろうが、僕自身も今までになく、歴史について考え、学んでいるわけである。