考えてみれば、誰でも意見の持てる事柄は世界の出来事のごくわずかかもしれない。一万分の一にも満たないだろう。昔、全生園に行った時もそこについての意見は持てなかった。同行したかなりの者（会の別なく）たちもそうだった。意見を言えた人は、まつさんに絵を教えた一職員だけだった。当たり前だと。三つの理由が重なっていたからね。医学基礎知識不足、全生園での労働経験がない事、及び、元患者やハンセン氏病差別の多様性で。今思うと、本当に当たり前である。「寂しそうだった」では意見にもならないわけだし。以上の職員さんは独特の意見を述べていたが、語ると僕はオウム返しにしかならないから、述べる事もないわけである。心の中にしまうしかない。
　　統合教育が論議されたころの僕も以上と同じだった。教育関係の基礎知識不足、先生経験がない事、及び、教育の場の多様性。本当に一クラスごとに違うわけだから。それどころか、母校の光明への意見も今日まで述べられないが、それも当然である。日本の教育についてもそうだから、ましてや、アフリカの教育みたいな事は述べられるわけもない。そのような議論の場にも僕は加われないし、加わったらいけないと思う。
　　大体、物事のほとんどは労働を通さないと見えてこないのではないか。労働を介さなくても意見を述べられるのは、恋愛や結婚の類に限られると思う。
　　そう言えば、送信先にもその関係者も複数いるが、僕は高島平団地の子供会をして一緒に遊んだ事がある。楽しかった。でも、もし、その関係者から「高島平団地についての意見」を強く求められたら、僕も意見が言えず、早くに止めた気もする。そんなものだよ。
　　Ｓ園も僕は職員経験はないが、複数というより、三人の園生から恋愛や結婚についての話を聞いたから、今でも書けるわけである。まさに「労働を介さなくても話せる事」だと。
　　意見の持てない事には「持てない」とはっきり言うべきである。ムリに語っても、抽象的で誰にも判らない言葉になるから。そのように構成員がムリに意見を求め合い、自分の事も述べられなくなり、交友もできなくなり、潰れた福祉会もあったわけだし。